社会学入門―人間と社会の未来 (岩波新書)

社会学入門―人間と社会の未来 (岩波新書)

筆者は、社会学の領域横断性を指して、「それ自体は目的ではなく結果である」という。それはなんでもありという一面に魅力を感じて志す学生には耳が痛い指摘である。
本書は、まさにそうした作者の探求の結果のサブプロダクトであるように思える。


筆者が一般的な社会学者と比較して一回り大きな領域横断性を持ちえていると感じるのは、その韻文的な要素である。社会科学の中に自閉しない姿勢は、親しみやすい。講義を活字化した章も本書に含まれるが、受講した学生は幸福な社会学との出会いを果たしたと想像する。

とくに本書のなかで心ひかれたのは、シラーの詩「歓喜に」とそれが歌詞となったベートーベンの第九交響曲の下りである。シラーの詩からマックス・ウェーバーは「世界の脱魔術化」という言葉を借りた。ベートーベンの曲は、東西統一チームがオリンピックで金メダルを取ったときに流され、ECの代表がサミットに立ったときに流された。もちろんウェーバー自身は、近代のもたらす両義性を(すなわち進歩のみでなく裏面の冷酷さを)見据えており、それが主題として扱われる。


筆者の韻文的な態度は、しかし簡単にまねできるものではない。これだけの領域横断性をもちえながらなおぎりぎりで破綻を回避できるその技術は、名人芸といっていい。