静かに流れる川、それに寄り添うような並木、犬を連れた老人、彼を追い越すランナー。いつも、僕はこのコースを散歩していた。並木にも、老人にも、ランナーにも興味はない。僕は、ただ川だけを見つめながら歩いていた。
川の底を見ることはできない。ひどく濁っているからだ。太陽や雲を反射して水面はネガフィルムのような模様を描き、わずかに水鏡としての機能を果たしていることが分かる。目をこらして水面の向こうを射抜こうとしても徒労に終わる。おそらく、夜の間に闇を吸い込みすぎて、黒を肥やしすぎてしまったのだろう。
しかし、毎日川を眺めていると、少しずつ表情を変えていることに気づく。あるときは優しく、あるときは猛々しく。雨で増えた水かさや、風が生む波紋なんかが、それを知る手がかりだった。