若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)

若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)

村上春樹といえば、自著については作品と作家の不連続性を強調する傾向があると思う。彼が批評的な文章を書くのに違和感があって、なんとなく読むのをよしていた。
・たしかに本書ではけっこう図式的に読んでいる。本書は仮説を立ち上げて、推論を進めていくという流れで読み解きを行なう。その仮説と推論では、作品と作家の人生と時代背景の三者が結び付けられている。仮説はあくまで仮説であって、恣意もあるかもしれない(一冊も読んだことがないわけだから、仮説の妥当性は確かめようがないけど)。
・でも、仮説の妥当性はともかくとして、彼の分析は面白かった。するすると紐がほつれるような気持ちの良さがあった。作家の意識に水準をあわせていたからだろうと思う。つまり、<作品⇔社会>という図式ではなくて、作家という中間項を入れて〈作品⇔作家⇔社会>という図式で読み解いているから、いろいろと面白い部分を掬い取った分析ができている。
・もうひとつ本書の面白いところは、村上春樹の創作態度がうかがい知れるところ。勉強になる。